メコン・ウォッチの承認を受け、下記サイトより転載させて頂いた記事です。 http://www.mekongwatch.org/resource/news/20110301_01.html
メコン川開発メールニュース2011年3月1日
カンボジア政府は1990年代初頭より、「経済土地コンセッション」(Economic LandConcession)という手続きを通して、内外の民間企業に土地の使用を最長99年間認めることで、大規模プランテーションや農園への民間投資を奨励してきました。しかし、コンセッションの対象となった土地では、住民たちが強制的に立退かされたり、農地や放牧地への立ち入りを制限されたりと、さまざまな被害が発生しています。国連人権高等弁務官事務所(UNOHCHR)カンボジア人権事務総長特別代表が2007年6月に発表した報告書(Economic Land Conce ssions in Cambodia, A Human Rights Perspective)も冒頭で、農村部の59件、94万3,069ヘクタールに及ぶコンセッションのうち、36件が外国企業や政治・経済的に力を持つ人びとに有利なように承認されたと述べています。
http://cambodia.ohchr.org/WebDOCs/DocReports/2-Thematic-Reports/Thematic_CMB12062007E.pdf
こうした事態を憂慮するカンボジアのNGOグループは、政府に対して、すでに実施されているコンセッションを見直し、あらたなコンセッションを一時停止するよう要請し、また政府に多額の援助を提供する工業先進国政府に対しても、たびたびコンセッションによる被害の深刻さを訴えてきました。
関連ニュース「NGOが支援国政府に対して経済土地コンセッションによる被害を強調」(2010年6月24日)
しかし、残念ながら事態は好転していません。今年1月にカンボジア政府森林局が発表した報告書によると、コンセッションは130万ヘクタール(カンボジア国土の7%)に拡大し、コンセッションが原因となって、カンボジアの森林も急速に減少しつつあります。
以下では、この件を報じた現地紙『プノンペンポスト』(原文英語)の記事を日本語訳で紹介します。
脅かされる森林
Vong Sokheng/James O'Toole
『プノンペンポスト』
2011年1月17日(月)
カンボジア政府森林局は、政府が経済土地コンセッション(ELC)による国土の譲渡を続けるならば、全国の森林面積を60%とする目標を達成できないと警告を発した【訳注1】。
森林局が先週公表し、本紙が本日入手した2010年年次報告書によると、これまでに130万ヘクタール以上に相当するコンセッションが承認された。
この数字は現在のカンボジアの領土のほぼ7%に当たり、コンポンスプーとカンポットの二州を合わせた面積よりも大きい。
森林局は衛星写真で得られたデータを引用しつつ、カンボジアの現在の森林面積は国土の56.94%で、2006年の時点から2.15%減少していると述べた。
森林局はまた、「この結果を見て、森林局と農林水産省はともに、政府がミレニアム開発目標(MDG)で設定している森林面積60%を達成できないと懸念している。原因はコンセッションによる(森林の)減少傾向である」と述べ、さらに多くのコンセッションが検討の過程にあると指摘した。
「コンセッションの対象となった土地を調査する必要があり、契約にそって使っていない土地は保存目的で没収すべきである」。
人権団体は、コンセッションが認められた多くの土地で森林が伐採され、明確な利用目的もなく放置されると批判している。
昨年(2010年)5月、カンボジア人権行動委員会(CHRAC)は声明を発し、政府に対して適切な監視体制が整うまでコンセッションを停止するよう要請した。
新しい統計では、2006年以降にコンセッションが認められた土地は約30万ヘクタールに達する。
コンサベーション・インターナショナルのデビッド・エメット(David Emmett)地域ディレクターは、コンセッションをめぐる法制度を強化し、カンボジアが森林面積を維持し、保全事業の恩恵を受けられるようにすべきだと語った【訳注2】。
そうした保全事業の中でもっとも知られているのは国連(UN)の「森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減」(REDD)【訳注3】で、特定の国が他の国の森林保全事業に対して資金を提供することで、自国の炭素排出量の(削減)の肩代わりとすることができる。
「カンボジアへの投資を望む援助国や政府はたくさんあるが、例えばREDDに申請したモデル地域の一部が突然1万ヘクタールの新規コンセッションの対象になったりはしないかと確信が得られないのだ」とエメット氏は述べた。
また、エメット氏は、森林局があげた森林面積56.94%という数字に対しては、「ほぼ正確だろう」とし、カンボジアの森林減少は東南アジアの他国と比べればそれほど急速ではないと付け加えた。
しかし、劣化したり、部分的に伐採された土地が森林として計算されていることもあるとした。
エメット氏は、「この数字が森林の量や質を完全に捉えているとは限らない」と述べた。
「ある土地を依然として森林だと言いながら、実際には森林の30%が伐採されていることもある」。
森林局の報告書では、職員が、森林に関わる犯罪の撲滅に神経を注ぎ積極的に活動したにもかかわらず、昨年、少なくとも7,977ヘクタールの森林が違法に伐採されたとしている。
昨年、フンセン首相は違法伐採に対する取締まりを宣言し、4月には、違法伐採の撲滅に失敗したとの理由で前森林局局長のティ・ソクン(Ty Sokun)氏を更迭した。森林局の報告書によると、昨年1年で約1万立方メートルの木材が違法伐採であるとして没収され、同容疑で82人のカンボジア人が起訴されている。
しかし、人権党のイェム・ポンハリット(Yem Ponharith)報道官は、政府高官が違法伐採や密輸に関与した場合、めったに起訴されることもなく、利益を得つづけると述べた。
同報道官は、「違法伐採に関わる者たちへの手入れは何度も行われているが、政府関係者に賄賂を支払って、高価な木材の密輸を続けているのである」と語った。
また、同報道官は、森林保護とコンセッション削減を呼びかける人権党の声はことごとく無視されていると付け加えた。
昨年5月、REDD事業への利用に可能な地域保全と森林増加を目的に、隣国のインドネシアが森林地帯におけるコンセッションの停止を宣言した【訳注4】。
ただし、実施はつい先ごろまで持ち越された。
チャン・サルン(Chan Sarun)農林水産大臣にコメントを求めようとしたが本日は不在で、チェン・キム・スン(Chheng Kim Sun)森林局局長はコメントに応じなかった。
訳注
【1】コンセッション(経済的土地営業権)については、『カンボジア王国の投資に関する法律・政令』(カンボジア開発評議会他、2008年)、「第二部:投資関連法・政令の一部(コンセッション関係)」を参照。
http://www.asean.or.jp/ja/asean/know/country/cambodia/invest
【2】コンサベーション・インターナショナルは、1987年設立の米国の環境保全団体。今年2月、カンボジア全土を含むアジア南部地域を「世界で最も危機に直面した森林地帯10ヶ所」の一つとして発表した。
http://www.conservation.org/explore/priority_areas/hotspots/asia-pacific/Indo-Burma/Pages/default.aspx
【3】REDDとは、開発途上国における森林の破壊や劣化を回避することによる温室効果ガスの排出を削減に対して、経済的なインセンティブを付与するための国際的なスキームであり、現在、国連気候変動枠組条約等において議論が進められている。
http://www.foejapan.org/forest/sink/redd_01.html
【4】2010年5月26日、インドネシアおよびノルウェーは、REDD+に関するパートナーシップ合意を締結したが、この中に、インドネシアは、天然林や泥炭地のプランテーション開発に対する新規コンセッション承認を2年間にわたって凍結するというモラトリアム条項が盛り込まれ、注目を集めた。
(文責・翻訳 土井利幸/メコン・ウォッチ)
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