2011年3月4日金曜日

アフリカでも進行する国際的な農地取引 誰にとってのチャンスなのか(2009)

 

アフリカ日本協議会(AJF)発行の、会報「アフリカNOW」(季刊)に掲載された記事です。会報ではAJFの活動紹介にとどまらず、アフリカに関する最新情報を伝える、日本で出会えるアフリカを紹介する内容の記事を掲載しています。

2009年の第86号に掲載された記事からの転載です。http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/africa-now/2009.html

アフリカでも進行する国際的な農地取引-誰にとってのチャンスなのかInternational land deals in Africa Land grab or development opportunity?
『アフリカNOW』編集部/Editor of "Africa NOW"

政変の背景に大規模な農地取引

 今年初め、「首都で反大統領デモが暴徒化、少なくとも34人死亡 マダガスカル」(1)と報じられて以来、3月18日に「マダガスカル新大統領に野党指導者 21日就任」(2)という政権交代のニュースが伝わるまで、日本の新聞やウェブニュースにもマダガスカルの政変に関するニュースがたびたび登場した。その後3月21日には「韓国企業に農地の半分無料貸与 国民反発で大統領退陣 マダガスカル」(3)と報じられている。
 また5月には、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、国際環境開発研究所(IIED)から調査報告書"Land grab or development opportunity? Agricultural investment and international land deals in Africa"(4)(土地争奪なのか開発の機会なのか? アフリカにおける農業投資と国際土地取引)が発行され、アフリカにおける大規模な農地取引(この報告書の定義では1,000ha以上の農地取引)の一端が明らかにされた。この報告書では、土地市場が発達しておらず、土地が基本的に国有あるいは共同体所有とされているアフリカにおける土地取引には、世界的に進行している国際土地取引の中でも際立った特徴があると指摘されている。

アフリカにおける土地取引の特徴

 この報告書の出版を伝える5月25日付のFAO日本事務所のプレスリリース(14?15ページに全文を掲載)は、アフリカにおける国際土地取引の特徴を以下のようにまとめている。

・調査により、土地に対する投資は過去5年間増加していることがわかった。しかし海外からの投資が圧倒的である一方、国内投資家もまた土地買収に大きな役割を果たしている。
・民間取引のほうが政府間取引より一般的だが、各国政府も様々な手段を用いて民間取引を間接的に支援している。
・食料とエネルギーの安全保障の懸念が鍵となる推進力だが、ビジネスチャンス、工業用農産物需要、受入国の政府機関などその他の要素も関与している。実際にはどの国でも、大規模な土地獲得は農地のわずかな一部にとどまっているのだが、広範に広がっている見方とは逆に、農耕適地のほとんどは地元の人々に既に利用されていたり、利用権が主張されており、非常に小規模な「空いた」土地しか残っていない。
・報告書により、多くの国で地元の権利を保護し、地元の利益、生活と福祉を考慮する充分なメカニズムがないことがわかった。契約交渉における透明性の欠如、チェックと均衡性の欠如が、公共の利益を最大限としない取引を促進してしまう可能性がある。不安定な現地の土地の権利、登録手続きへのアクセスの欠如、生産的利用条件のあいまいな定義、立法上の欠落やその他の要因があまりに頻繁に現地の人々の立場を損なう。
・既存の土地の利用と権利を含む現地の状況を慎重に評価し、農村社会のために土地の権利を保障し、現地の人々を交渉に関与させ、自由で事前に十分説明された上での現地の人々の同意が得られた後でのみ、土地獲得を可能とする必要がある。

見えない土地取引の実態

 この報告書は、「大量のメディアレポートそしてごく限られた先行的調査(特にGRAINのレポート"SEIZED! The 2008 land grab for food and finacial security”(5))があるとはいえ、国際土地取引とその影響についてはほとんどわかっていない。この報告書はこのギャップを埋めるための一歩である」と述べている。その一方で、「アフリカにおける土地の取得に関する1次・2次データはとても少なく、信頼性も低い」ことを指摘し、土地取引の実態を明らかにする作業は今後の重要な課題と述べている。
 マダガスカル出身者が運営するウェブサイト"Collectif pour la Defensse des Terres Malgaches"(6)(マダガスカルの土地を守るためのニュース集成)で前大統領と韓国企業の取引が明らかにされたことが、前大統領への怒りを引き起こしたと伝えられている。またウガンダでは2007年4月に、ビクトリア湖に浮かぶ島の数千ヘクタールの熱帯雨林をオイルパーム・プランテーションへ転用するという計画が明らかになり、首都カンパラで大規模な土地取引反対の行動が起きて計画が破棄される(7)など、土地取引の実態を明らかにする作業は、政変やさまざまな社会不安にもつながる可能性があり、困難が予想されている。

投資国の食料安全保障 vs
投資を受ける国の食料安全保障

 GRAINのレポートは、一昨年から昨年前半にかけて急激に進行した世界的な食料価格の高騰の中で「食料不安にかられた輸入頼みの政府たちが、自国民を食べさせるために自国自身の食料を国外生産で確保するよう外国の広大な農地を召し上げている。他方では、農業・加工・食品会社や金融危機の悪化の背景の中で、収益に飢えた民間の投資家たちが大型で新しい収入源を外国農地への投資の中に見出している」と概観し、食料を輸入に頼る国々、特に中東諸国、中国や韓国そしてリビアなどがアフリカ諸国で大規模な土地取引を行っていると指摘している。
 FAO・IFAD・IIEDの報告書では、スーダン、エチオピア、ガーナ、マリ、マダガスカル、モザンビーク、タンザニアの土地取引の現状が報告されている。この報告書によれば、スーダン政府は2000年に締結した取り決めによって、ゲジラ州の12,600haの土地を50年間のリースでシリア政府に提供している。スーダンとエチオピアでは、サウジアラビアの農業投資企業が計4億米ドルの農業投資をすることを発表した。この農業投資企業は、エジプトでも大麦や小麦、家畜生産を目的に10,000haの農地へ投資しており、2009年にはエチオピアで、規模は不明だが、農地を取得したと伝えられている。前述した、耕作可能な農地の約半分の農地を韓国企業に無償でリースしようとしたことが引き金になって政変が起きたマダガスカルでは、一方で、 452,500haの農地がバイオ燃料原料であるヤトロファを栽培する企業に50年のリースで提供されている。タンザニアでも英国の企業が、バイオ燃料原料としてスウィート・ソルガムを栽培するために45,000ha以上の農地のリース契約を取得している(pp.38)。
 こうした農業投資が、投資国の食料安全保障確保あるいは先進国向けのバイオ燃料生産のために行われている一方で、スーダン、エチオピアでは世界食糧計画(WFP)による食料援助が実施されている。南アフリカ共和国をのぞくアフリカ諸国のほとんどが主要な食料を輸入に頼る純食料輸入国で、投資国の食料安全保障のための農業投資がアフリカ諸国で広がっていることに対して警告が発せられている。

アフリカに未利用の農業適地はあるのか

 武田丈・亀井伸孝編『アクション別フィールドワーク入門』(8)に収録された西崎伸子さんのレポート「遠い世界に踏み出す」は、政府が生物保護のために「サンクチュアリ」とした土地に対して、周辺地域の人々が歴史的な土地利用を背景に利用する権利を主張していることを伝えている。また、松村圭一郎『所有と分配の人類学』(9)は、国土のすべてが国有地とされているエチオピア農村で、農民たちによる土地取引が行われていると述べている。国際土地取引の対象とされた農地に関して、FAO・IFAD・IIEDの報告書は、「農耕適地のほとんどは地元の人々に既に利用されていたり、利用権が主張されており、非常に小規模な『空いた』土地しか残っていない」ことを明記している。
 またこの報告書第3章のBox 3.1「強力な政策しかし政策通りに実施されない状況:モザンビークにおける土地取得に関する共同体への諮問の経験」、Box 3.2「明確な法律と機関しかし不適切な経験とガイダンス:タンザニアにおける土地取得に関する共同体への諮問と補償」では、土地を利用している農村共同体の権利を守るために設けられた法律や仕組みが十分に機能していないことが報告されている。
 実際に土地を利用し農業生産を行っている農民、農村共同体の権利が脅かされることは、食料生産への意欲を失わせ食料安全保障を脅かすことになる。適切な政策が実施されないならば、ウガンダやマダガスカルで起きた土地取引反対の大衆的な抗議行動や社会不安という結果につながることも予測されるだろう。

アフリカ諸国の農民たちの
意欲に応える農業支援を

 国家の土地政策、開発政策が、対象となった地域の人々の生活を脅かし、土地政策、開発政策への反対運動につながったケースは、先進国でも少なくない。現在、アフリカ諸国で進行している国際土地取引に関して、農地の無償リースをてこに開発資金を導入しインフラ整備や技術移転を促すといった、土地取引の対象となっている国の政府の考えや計画だけでなく、対象となった地域の人々、とりわけ農地を実際に利用し食料を生産している人々の気持ちや希望に注目する必要がある。
 FAO・IFAD・IIEDの報告書で指摘されている「多くの国で地元の権利を保護し、地元の利益、生活と福祉を考慮する十分なメカニズムがないことがわかった。契約交渉における透明性の欠如、チェックと均衡性の欠如が、公共の利益を最大限としない取引を促進してしまう可能性がある。不安定な現地の土地の権利、登録手続きへのアクセスの欠如、生産的利用条件のあいまいな定義、立法上の欠落やその他の要因が、あまりに頻繁に現地の人々の立場を損なう」という現状では、人々の希望は奪われていく。
 すでに砂漠化の進行により生産力を失った農地を離れ、国内の大都市へ、ヨーロッパ諸国へと続く人の波は無視できない規模になっている。国際土地取引をめぐる政策の失敗は、この人の波をさらに大きくする可能性があるだろう。マダガスカルで起きたような政変につながる動きになるかもしれない。GRAINなど農民支援の組織の伝える情報も参考にして、アフリカ諸国の農民たちの意欲に応える農業支援を追求していかなくてはならない。

(1) AFP BB News 2009年1月28日 13:40 発信地:アンタナナリボ/マダガスカル )
(2) MSN産経ニュース 2009年3月18日
(3) MSN産経ニュース 2009年3月21日
(4) ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/011/ak241e/ak241e.pdf
(5) http://www.grain.org/briefings_files/landgrab-2008-en.pdf
日本語訳「食料と金融危機最中の農地に卑劣な手口」http://www.arsvi.com/i/2-food_seized.htm
(6) http://terresmalgaches.info/
(7) http://www.arsvi.com/i/2agrofuel.htm#08
(8) 武田丈・亀井伸孝 編『アクション別フィールドワーク入門』世界思想社、2008年3月
(9) 松村圭一郎『所有と分配の人類学』世界思想社、2008年2月

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