2012年2月26日日曜日

グレインが農地収奪に関する新しいデーターを公表/モザンビークを概観

 

このデータは2006年以降の、それぞれの国に対する海外農業投資を集約したものであり、そのほとんどはFarmlandgrabのサイトに報告されたものに依拠しているとのことである。
GRAIN releases data set with over 400 global land grabs(2012/2/23)
http://www.grain.org/article/entries/4479-grain-releases-data-set-with-over-400-global-land-grabs

(数字の記載ミスがあったのでいくつか修正しました。)

この中でモザンビークに焦点を当てて概要を報告する。
1)耕作面積
まず海外農業投資に目を向ける前に、モザンビークの耕作地面積を把握してみたい。

JICAの報告書によると「農耕可能地については約3,600 万ha と報告されているが、実際の耕作地面積はこのうちの16%に相当する570 万ha である」とのことである。
FAOのデータベースでは(2009)、農業用地が約4930万ha、耕作地が約505万ヘクタール、林地が約3923万ヘクタールとされている。(農業用地と林地で総土地面積の7863万haを上回る)
USAIDのサイトは耕作地は380万~530万ヘクタールであろうと見なしている。

つまり土地利用を明確に把握するデータは存在していないというのが実態であるのだが、とりあえず500万ヘクタールを耕作地として考えてみる。

2)GRAINのデータ
 GRAINのデータベースによると2006年以降のモザンビークにおける農業投資案件として25件、1,583,149ヘクタールがリストアップされている。現在の耕作面積の30%である。これらがどのような土地で進められているかはわからない。
 またこのうちの120万ヘクタールはエタノール生産向けと思われる。

3)JICA-ブラジル-モザンビークプロジェクト
 このプロジェクトの準備調査が対象としたナンプーラ州についてJICA報告書は「ナンプーラ州における農地面積は約459 万haと推計され、そのうちの約31%に相当する145万haが耕作地として利用されている」と記載し、一戸あたりの平均所有面積は1ha、またナンプーラ州では70万の農家が存在するとされている。
 
 GRAINのデータベースにある農業投資の総面積は、150万世帯が影響を受ける可能性も秘める規模なのである。

 では、果たして、JICAが調査も行わずに、プロジェクト対象地域に含めた、日本の農地面積より広大な、640万ヘクタールは一体どのような土地なのだろうか。少なくともJICAの報告書には明確に示されていないのでわからない。その面積は現在のモザンビーク全体の耕作地よりも大きく、モザンビークの「農業用地(可耕地を意味するのであろう)」の20%近い。このような膨大な面積が「機械化農業に適している」と記載された外交文書に、JICAは調査もせずに調印しているのである!

4)GRAINのデータから把握できるもう一つの問題
 今回の三角協力のブラジル側カウンターパートであるEMBRAPAについて、既にブラジルの鉱業開発企業とのジョイント・ベンチャ-でモザンビークに投資することが報告されている。3万ヘクタールのオイル・パーム生産を行うとのことである。
 モザンビークにおける収益事業にコミットしているEMBRAPAが、公的事業として行われるJICAの国際協力事業に、ブラジル政府側のカウンターパートとして組み込まれていることは問題ではないだろうか。

 またGRAINのデータにあるように膨大な海外農業投資がすすみつつあり、今後様々な問題が発生することが予見される時代に、上記のような投資計画にもコミットしているブラジルのEMBRAPAと組んで、海外農業投資、大規模農業開発のために税金を投入することの是非が強く問われる。
 放っておいても民間企業が進めるであろう事業の片棒を担ぐのではなく、小農民の権利と生活を守るためにこそ、私たちの税金が利用されるべきなのである。

開発と権利のための行動センター 青西

モザンビークに関するデータ抽出分はこちら

http://cade.cocolog-nifty.com/file/Mozambique-GRAIN.pdf

2012年2月19日日曜日

違法な農地収奪を煽るバイオ燃料プロジェクトと現状が見えない日本企業

フィリピン、イサベラ県におけるバイオ燃料プロジェクトが、地域内における土地紛争を激化させる要因となっていることは、以前も報告しました。

 今回FoEのサイトにまた新しい事実が報告されています。不明瞭な土地所有権に加えて、経済的・政治的な権力を有する者による違法な土地取引や土地登記によって、農民から土地が奪われ、サトウキビ農園に転換されつつあるのです。

【現地報告】農地収奪・作物転換の現状(続報)2012年2月13日http://www.foejapan.org/aid/land/isabela/20120213.html

 農地契約を請け負う現地企業であるEcofuel 社は「土地の所有権の法的状況が曖昧であったり、所有権に問題のある土地では契約しない」との見解を示し、契約後に問題が発覚した場合は契約を破棄することを示してきました(2011年6月、国際NGO調査団との会合で回答)が、現実には、その対応も不十分であることが報告されています。

 農地賃貸契約を結ぶ際に提出された権利書が「正当であるように思われた場合」には、あえてその権利書の内容について精査することはないと思われます。今回FoEのサイトにて報告されているように、農民が権力者による立ち退き命令に負けず、脅迫にも負けず、所有権の真偽を、自ら調べて告発しない限り、問題が存在することすら明らかにはならないのです。 

 Ecofuel社が、農民が泣き寝入りしている事例まで、わざわざ調べに回ってくれるわけもないのであり、Ecofuel社からの報告のみでは、現地親会社のGFII社も投資側の伊藤忠商事他も真実をつかむすべはないのです。

 このバイオ燃料プロジェクトに投資している日本企業/伊藤忠商事が、「現地企業が所有権に問題のある土地では契約しない」と語っていることを根拠に、違法な土地取引や土地収奪がないと判断する根拠は明らかに揺らいでいます。 
 地域内の土地紛争に関して調査する第三者機関を設置し、透明かつ迅速に調査できるような仕組みを作るような、地域内の政治的・経済的な紛争のただ中に身をさらすような深いコミットメントをしない限りは、このバイオ燃料プロジェクトの正統性を保証することは難しいものと思われます。

 開発と権利のための行動センター
 青西靖夫

本紹介

バイオマス本当の話し 持続可能な社会に向けて
第1章 バイオマスの基礎知識
第2章 バイオマスの持続可能性
第3章 日本でどう利用するか



農業と経済11月号
http://www.kyoto-gakujutsu.co.jp/showado/noukei/201111.html

特集●食料不安!? 価格高騰下の食料安全保障
第1部 世界と日本の食料安全保障政策
食料価格高騰下のG20農相会合で何が合意されたのか 北林寿信
・世界食料需給予測と国際的対応 小泉達治・古橋 元
・日本の食料安全保障――問われる食料自給力と国際的責任 鈴木宣弘・木下順子
・金融投機の問題点と商品市場規制の可能性 田中徹二
海外農地調達と途上国における食料安全保障 青西靖夫
・食料安全保障と食料主権――国際社会は何を問われているのか 久野秀二

第2部 食料の価格動向と国内への影響
・国内食品産業はどう対応したか―1次・2次加工食品価格の動向と食品産業の対応策 野島直人
・飼料穀物価格の動向と酪農・畜産業への影響 森 久綱
・品目ごとの価格動向と関連産業の対応
 【小麦】小麦の国際的価格動向とその影響 吉田行郷
 【大豆】高騰と高止りの繰り返しが予想される大豆の国際市場 薄井 寛
 【砂糖】砂糖の国際価格動向と国内への影響 成田喜一
 【コーヒー】コーヒー価格高騰と食料安全保障
  ――キリマンジャロの小農民による生産・市場リスクへの対応 辻村英之

2012年2月13日月曜日

アンゴラでサトウキビによるバイオ燃料プロジェクト。日本企業が建設を受注

 

  2012年2月7日付けの丸紅株式会社(以下「丸紅」)ニュースリリースによると「アンゴラ共和国・地質鉱山工業省より製糖・バイオエタノール工場新設請負契約を受注しました。」とのことである。
  http://www.marubeni.co.jp/news/2012/120207.html

 このプロジェクトはアンゴラ南部のクネネ州(Cunene province)にサトウキビを原料とする精糖・バイオエタノール生産拠点を確立する計画のようであり、丸紅は、設備の設計から試運転までを一括で受注したということである。

 アンゴラでは現在、サトウキビとバイオエタノール生産がブームとなっているようであり、北部においても、ブラジル企業と国営石油会社のジョイント・ベンチャーでのバイオエタノール生産が進められているようである。
   http://www.biocom-angola.com/

 クネネ州におけるプロジェクトの詳細は把握できていません。

 青西

2012年2月9日木曜日

転載:2/17 セミナー「熱帯林とパーム農園~プランテーションは持続可能になり得るか?」

イベント情報転載します。

■セミナー「熱帯林とパーム農園~プランテーションは持続可能になり得るか?」

http://www.mekongwatch.org/events/lecture01/20120217.html


アブラヤシの実からとれるパーム油は、現在世界で最も生産・消費されている油脂です。日本での消費量は過去30数年の間に5倍と急増し、食用油脂、加工食品を中心にさまざまな製品に使用されています。パーム油は、インドネシアとマレーシアで世界の85%が生産され、熱帯林地域がアブラヤシ農園開発のために転換されています。プランテーション向けの土地利用転換は、東南アジアにおける、熱帯林の最大の脅威となり、地域によっては地元住民のとの土地をめぐる軋轢も生じています。

パーム油の持続可能な利用と生物多様性との共存については、「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」での議論が続けられていますが、「持続可能なパーム油」とは何か、熱帯林保全との両立はどうすれば可能なのでしょうか。今年度の現地調査や日本企業へのアンケート、ヒアリング調査の結果を踏まえ、考えていきたいと思います。

■開催日:2012年2月17日 13:30~16:30

■会場:東京ウィメンズプラザ視聴覚室

■資料代:500円(主催団体会員は無料)

■内容(予定、敬称略)

1.総論「プランテーション開発と熱帯林」三柴淳一(FoE Japan)                                          2.「パーム油の基礎知識」桑野知章(幸書房)                                                                  3.スマトラ報告「小規模農園と土地紛争」中司喬之(熱帯林行動ネットワーク)                        4.サラワク報告「先住民族への影響」峠隆一(フリージャーナリスト)       5.サバ・RSPO報告「グッドプラクティスの追求」飯沼佐代子(地球・人間環境フォーラム)     6.アンケート調査結果報告「企業の認識と取り組み」根津亜矢子(地球・人間環境フォーラム)  7.まとめと提言 満田夏花(メコン・ウォッチ)

■主催:メコン・ウォッチ、国際環境NGO FoE Japan、地球・人間環境フォーラ ム、サラワク・キャンペーン委員会、熱帯林行動ネットワーク、レインフォレスト・アクションネットワーク日本代表部

◆申込み:下記フォームからお申込み下さい。https://pro.form-mailer.jp/fms/6ee1b20825955

◆問い合わせ先:特定非営利活動法人 メコン・ウォッチ担当:満田(みつた)Tel: 03-3832-5034  Fax.03-3832-5039※本セミナーは、地球環境基金の助成金により開催します。

2012年2月8日水曜日

フィリピン バイオエタノールプロジェクトを巡る問題

FoE Japan のサイトに日本の伊藤忠商事などが投資するイサベラ県のバイオエタノールプロジェクトを巡る問題が報告されています。

1)2月7日 【現地報告】未解決かつ拡大しつつある農地収奪・作物転換の現状

http://www.foejapan.org/aid/land/isabela/20120207.html

この報告では、先祖から耕作してきた土地であるにも関わらず、よそ者によって自分の土地が登記され、エタノールのためのサトウキビ生産の契約が結ばれてしまったケースを複数報告しています。

また土地紛争は、最初の事業計画地であるサン・マリアーノ町から、近郊へ拡大、輸出されつつある!とのことです。

伊藤忠などの投資を受け、現地で事業を進めるGFII社とECOFUEL社は、「土地の所有権の法的状況が曖昧であったり、所有権に問題のある土地では、契約しない」 との見解を示し、契約後に問題が発覚したケースに関しては、契約を破棄する方向性を示してきました(2011年6月の国際NGO現地調査団との会合における回答)にもかかわらず、こうした問題が続いていることを、この報告は指摘しています。

2)1月29日 工場建設労働者が正当な利益供与を訴えストライキ

http://www.foejapan.org/aid/land/isabela/20120129.html

この報告はバイオエタノール製造工場の建設労働者によるストライキと労働者の告発を報告している。

204名の労働者が、法的に定められた給与の未払い、不当解雇、不当な契約手続きの強要、正当な社会保障手続きなどを求めてストライキを実施したとのことです。

詳細はリンク先の報告を読んで頂ければと思います。

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 1)にあるような、土地が慣習的に利用されてきた地域で、今回のような開発事業が入ることによって、行政や権力に近いものが土地登記を都合よく操作して、土地を取得するというのは何世紀も続いてきた問題であり、それをまた繰り返すことは許されることではありません。

 また報告にあるように、日本企業側は対応を現地企業任せにするのではなく、自ら現地の状況を把握し、問題解決のために適切に対処することこそ、企業の社会的な責任の取り方であると考えます。法的な擁護を受けにくい農民や先住民族の権利を認め、尊重する方針を明確に示し、率先してその方策を提示し、実現することこそ社会的な責任を担っていくことを意味すると考えます。

 青西靖夫(開発と権利のための行動センター 理事)