2010年4月20日火曜日

「責任ある国際農業投資」ガイドラインは是か非か

開発と権利のための行動センターのサイトより転載

2010/4/20

「責任ある国際農業投資」ガイドラインは是か非か(I,II)

 日本政府も積極的に関与する「責任ある国際農業投資」のための自発的ガイドラインに対して、国際的な農民組織であるビア・カンペシーナ、また食料への権利の確立を求める国際的人権組織FIANが土地集積を進めるものであるとして抗議行動を展開中
 FIANなどはこのガイドラインは、農地争奪、そして外国資本による土地集積を正当化するものに過ぎず、農民の手から土地を奪っていくものであると拒絶する姿勢を取っている。
 日本の市民組織・農民組織はどのような声を上げていくのか?!
 背景
「責任ある国際農業投資」のためのガイドライン制定の動きには日本政府も強く関わっている。2009年9月26日に日本国政府及び世界銀行、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)及び国連貿易開発会議(UNCTAD)共催により、「責任ある国際農業投資の促進に関する高級実務者会合」(Roundtable on Responsible International Investment in Agriculture)が開催されたところに端を発するからである。[1](2011/09修正:これ以前のラクイラ・サミットに向けて既に日本政府は動いている)
 日本政府はこの会議において外国による農地取得が引き起こす可能性がある負の影響を踏まえ、「国際農業投資によって生じ得る負の影響を緩和しつつ、投資の増大によって世界全体の農業開発を推し進めるという包括的なアプローチだと考える。つまり、投資受入国の政府、現地の人々、そして投資家という3者の利益を調和し最大化する、『責任ある国際農業投資』を促進すること」を打ち出してきた。
 この会議の場で世界銀行から提案された「責任ある国際農業投資を促進するための原則」が、今後の共同作業のベースとなることとされたのである。
 それは次のような原則を含んでいる。[3]
土地地及び資源に関する権利:既存の土地及び天然資源に関する権利は認識・尊重されるべき。
 食料安全保障:投資は食料安全保障を脅かすものではなく、むしろ強化するものであるべき。
 透明性、グッド・ガバナンス及び投資を促進する環境:土地の評価と関連投資の実施過程は透明で、監視され、説明責任が確保されたものであるべき。
 協議と参加:著しく影響を被る人々とは協議を行い、合意事項は記録し実行されるべき。
 経済的実行可能性及び責任ある農業企業投資:投資事業は経済的に実行可能で、法律を尊重し、業界のベスト・プラクティスを反映し、永続的な共通の価値をもたらすも
のであるべき。
 社会的持続可能性:投資は望ましい社会的・分配的な影響を生むべきであり、脆弱性を増すものであってはならない。
 環境持続可能性:環境面の影響は計量化され、負の影響を最小化・緩和して持続可能な資源利用を促進する方策が採られるべき。
[1]外務省:責任ある国際農業投資の促進に関する高級実務者会合
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/food_security/090926_gh.html
[2]上記サイト の「平松審議官挨拶のポイント」
[3]上記サイト議長サマリー仮訳より
  世界銀行のプレゼンテーションに英文での詳細がある。
 こうした動きに対して、国際的な農民組織であるビア・カンペシーナ、また食料への権利の確立を求める国際的人権組織FIANが土地集積を進め、その問題を隠蔽するものであるとして抗議行動を展開しているのである。[4]
 FIANとビア・カンペシーナは次のように訴えている。
「農地の収奪/囲い込みは、農村コミュニティに対して土地へのアクセスを否定するものであり、コミュニティの生活基盤を破壊し、農民を対象とした農業政策の幅を狭め、市場と国際取引を歪め、アグロ・インダストリーの手に利益を集中させるものである。地域内や国内市場に向けた、そしてまた未来の世代に向けた小農民による持続的な農業への支援とはならない。また生態系の破壊・気候変動を加速するものでもある」
 このように農地の囲い込みは人権侵害を引き起こすものであるが、世界銀行は農業投資に関する自発的原則を定めることによって破壊的な結果を避けることができるという幻想を振りまき、農地の囲い込みを禁止するために必要な手段を講ずることを避けようとしているのである」
 その上で、世界銀行の提案する農業投資への自発的原則ではなく、農地改革と農村開発に関する国際会議」(the Internatiuonal Conference on Agrarian Reform and Rural Development、CIRADR)の最終宣言文及び「開発のための農業科学・技術国際アセスメント」(IAASTD)の勧告を履行を進めることを求めている。
 FIANなどは、世銀などが定めようとしている自発的原則は、外国資本による土地収奪を「社会的に受け入れられる」ものにしようとしているに過ぎず、投資ビジネスを通じて、地域住民の土地への権利が奪われていることに懸念を表明している。自発的原則ではなく、世界的な金融、食料、気候危機を前に、厳格な投資規制が必要とされるという事実をごまかすものだと見なしている。
[4]Stop Land Grabbing Immediately! 
http://www.fian.org/cases/letter-campaigns/stop-land-grabbing-immediately
IAASTDの勧告は多様な生態系のもとでの小農民の重要性、持続的農業の重要性などを取り上げていますが、もう少し整理してお伝えしたいと思います。
 日本政府も積極的に進める「責任ある国際農業投資のガイドライン」に対して、国際社会から反発の声も上がる状況を前に、日本の市民社会に流れる情報は少なすぎるように思います。
 (続く)

「責任ある国際農業投資」ガイドラインは是か非か II

 もう少し内容を検討してみようと思っていた矢先に、次のような声明文が送られてきました。「農民や市民社会組織は、ウィン・ウィンを語る土地収奪の世界銀行の提案を告発する」、「社会運動は農地収奪に関する世界銀行の戦略を告発する」というものです。
 ビア・カンペシーナやFIAN、ランド・リサーチ・アクション・ネットワーク、GRAINといった国際組織が、現在の農地収奪の動きを止めるための動きを展開しているものです。
 この動きは4月25日に開催された「責任ある農業投資に関するラウンドテーブル」とそれに引き続く、世界銀行による農地問題に関する国際会議に向けて行われています。
 私たちの政府が主催しているラウンドテーブルについて、他の国々の市民組織が反対の声を上げている。しかし私たちはラウンドテーブルについての情報を持ってもいなければ、反対している声を十分に聞くこともできていません。
 この状況は改善しなくてはならない、と思っています。
<とりあえずの現状分析>
1)日本の外務省のサイトにはこのラウンドテーブル開催についての情報は掲載されていないようである。
2)米国の国務省のサイトには、ラウンドテーブル開催情報が23日付で掲載されている。
Roundtable Discussion on Responsible Agricultural Investment (RAI)
http://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2010/04/140749.htm
3)世界銀行のAnnual Conference on Land Policy and Administration
http://go.worldbank.org/IN4QDO1U10
4) 社会運動、農民組織のサイトではラウンドテーブル開催に触れている。
4月12日付け
GRAINによって運営されているサイト
Food crisis and the global land grab:Japan, US and AU to host “Roundtable on Responsible Agricultural Investment”
http://farmlandgrab.org/12065
(このサイトには外務省サイトに掲載されていない文書も外務省文書も掲載されている)
ビア・カンペシーナのサイト:Farmers and civil society groups denounce World Bank proposal for win-win land grabbing
http://viacampesina.org/en/index.php?option=com_content&view=article&id=912:farmers-and-civil-society-groups-denounce-world-bank-proposal-for-win-win-land-grabbing&catid=23:agrarian-reform&Itemid=36
Land Research Action Networkのサイト STOP LAND GRABBING NOW!!
Say NO to the principles of “responsible” agro-enterprise investment promoted by the World Bank
http://www.landaction.org/spip/spip.php?article499
FIAN のサイト:Farmers and civil society groups denounce World Bank proposal for win-win land grabbing
http://www.fian.org/news/press-releases/farmers-and-civil-society-groups-denounce-world-bank-proposal-for-win-win-land-grabbing
(いくつかのサイトではメーリングリストも運営しているので、関心のある方は登録すれば、情報を受け取ることができる)
<取り得る対応>
1)外務省に対して、より適切な情報開示を要求する。
2)日本で継続的に農地収奪の問題についてフォローしていく態勢を検討する。
現状では農業情報研究所 http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/
アフリカ日本協議会の奥の奥に隠れているアフリカの食料・農業問題のサイト  
http://www.arsvi.com/i/2-food.htm
この辺が現状では重要な情報源なのかと思います。
(他にも重要な情報源がありましたら教えてください。)
 その上で、ネットワークと発信基盤の強化が必要だと考えます。
3) その次に、ネットワークを基盤にアクションの検討

 


STOP LAND GRABBING NOW!!
Say NO to the principles of “responsible” agro-enterprise investment promoted by the World Bank La Via Campesina FIAN Land Research Action Network GRAIN
Monday 12 April 2010
http://www.landaction.org/spip/spip.php?article496&lang=es

リンクが切れているので、次のサイトを紹介する http://www.fian.org/resources/documents/others/stop-land-grabbing-now/pdf http://www.fian.org/news/press-releases/farmers-and-civil-society-groups-denounce-world-bank-proposal-for-win-win-land-grabbing


(一部抜粋整理)
農地収奪は農村コミュニティや人々の食料への権利や食料主権への深刻な脅威である。世界銀行はこうした事態を前に、投資が成功するように7つの原則を定めようとしている。
問題点
-現在進みつつある、民間セクターによる土地の買い上げはリスキーである。世界銀行も開発途上国の農地が海外の投資家によって買い集められている大きな流れについて調査を終えたばかりである。しかし世界銀行は、これまで広がっていなかった地域における世界的なアグリビジネスの広がりと民間資本の流入は望ましいものであるとみなしている。
-こうした動きが土地私有化の大きな動きと、土地権の移行を伴うため、世界銀行は、社会的な反発のリスクを下げるためにいくつかの基準を設けようとしている。
-しかし農地収奪を正統化するものに過ぎない。企業がコミュニティの土地を支配していくプロセスであり、許されるものではない。
-規制緩和や貿易条約を通じて、ここ10-15年の間、農地収奪は進んできた。
-食料危機において、政府や投資家による農地収奪が進んだ。
-小農民の手から農地や森林が奪われ、貧困や飢餓が進んでいる。
-人々の自己決定権、食料主権を脅かしている。
-世界銀行は、土地、そして土地に対する権利を、資本が高い見返りを得るための基本的な財とみなしている。土地は作物を生産するだけではなく、新エネルギーの材料、そしてまた水を確保する方策でもある。
-世界銀行や企業は土地を経済的な側面からのみ評価して、生態的・社会的・文化的価値を認めていない。
-農地収奪は、コミュニティの土地への権利を否定し、生活様式を破壊する。
-生態系を破壊し、気候変動を深化させる。
-経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、国連の先住民族の権利宣言を侵害している。
-「農地改革と農村開発に関する国際会議」(the Internatiuonal Conference on Agrarian Reform and Rural Development、CIRADR)の最終宣言文及び「開発のための農業科学・技術国際アセスメント」(IAASTD)の勧告を無視している。
要求
-農地収奪は早急に停止すること
-土地と自然資源への公平なアクセスを確保するために、コミュニティの手に土地を維持するとともに、農地改革を実施すること
-小農民による農業、小規模な漁業・放牧を強く支援すること
-食料主権とローカルな市場に向けて農業政策を転換すること
-コミュニティが土地や水、生物多様性をコントロールするような農業システムを促進すること
-企業や政府などの土地(放牧地、沿岸地、森林、湿地なども)へのアクセスを制限すること。