アルゼンチンのニデラ社との包括提携に関連して、豊田通商に送付した質問状に対する回答を3月31日付けで受け取った。
内容は次のようなものである。
また関係省庁からの回答はいまだ受け取っていない。
・弊社(豊田通商)とニデラ社の提携は、アルゼンチン産およびブラジル産穀物・油糧種子について協力して販売促進していくこと、および、輸出施設や保管施設への出資や買収を検討の上、実施することであり、アルゼンチンでの栽培農地への投資・運営の実績や栽培農地に係る契約関係(土地取引含む)はございません。
・本件に関し、ニデラ社は公式ホームページ上で下記の声明を発表して、否定しており、弊社もニデラ社より同様の報告を受けております。
「アルゼンチン税務当局に登録済みの労働者を雇用しており、全てアルゼンチンの規則に則っている」
また、アルゼンチン種子協会も同様に否定しております。
・現在、アルゼンチン当局が調査中であり、調査結果が公表されていない段階と理解しております。従い、弊社としては。現状は事態を静観している状況であります。
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上記のような回答であるが、次のような問題点がある。
1)日本政府が定めた「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」は、海外農業投資を「我が国からの海外農業投資(生産、集荷、輸送、輸出等を含む海外農業関連投資をいう。)」と定義しており、その上で被投資国における法令遵守(指針3)を定めているのであり、今回の豊田通商の回答は、上記指針に沿ったものとはなっていない。
食料安全保障のための海外投資促進に関する指針
http://www.mofa.go.jp/ICSFiles/afieldfile/2009/08/20/G0858_J.pdf
2)この件について、豊田通商のWEBサイトにも、外務省、農林水産省のWEBサイトにも一言も掲載されておらず、海外農業投資原則が定めた「透明性」は全く保障されていない。
3)企業として、社会的責任を果たすために、労働者の雇用条件改善に貢献しようという方向性は全く見えない。
4)アルゼンチンでは労働省と農業者連盟が、農村労働者の労働条件改善と監視強化を実現するために、合同委員会を設置することに合意。[1]
一方、連邦歳入局(AFIP)がニデラ社を始め、カーギル社、バンジ社の支社など117カ所を立ち入り調査を行ったことが3月1日に報道されている。14ヶ月間に1億5千万ペソ(約30億円)を脱税した疑いがもたれている。 [2]
既にニデラ社は連邦債入局により、脱税の疑いから、2月10日に登録穀物取り扱い業者としての資格を停止されている。[3]
ここまでこのブログで取り上げてきた事例において、この「指針」が適切に運用されて、十分に情報公開がなされ、現地状況が分析され、適切な対応が取られているケースは存在していない。
青西靖夫
[1]Contra el esclavismo
http://www.pagina12.com.ar/diario/economia/2-164797-2011-03-24.html
[2]La Afip allanó 48 cerealeras denunciadas por evadir 150 millones de pesos
http://www.pagina12.com.ar/diario/ultimas/20-163287-2011-03-01.html
[3]La AFIP suspendió a Nidera del registro de operadores de granos http://www.am1380.com.ar/index.php?option=com_content&view=article&id=91:la-afip-suspendio-a-nidera-del-registro-de-operadores-de-granos&catid=12:economia&Itemid=14
Suspensión para Nidera
http://www.pagina12.com.ar/diario/elpais/1-162185-2011-02-11.html
3月3日付で送付した質問書
質問書
先般、アルゼンチンにおいて、ニデラ社の農園における農園労働者の搾取、労働関係法及び徴税関連法への違反が、アルゼンチン政府当局によって摘発されたとの報道がなされております。[1]
またこのアルゼンチンのニデラ社につきましては、昨年11月に貴社が包括提携を結んだとのニュースリリースも読ませて頂いております。[2]
一方、日本国政府は2009年(平成21年)8月20日に外務省及び農林水産省の共催によって第5回「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」を開催し、「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」を取りまとめております。
この中で、日本国の海外農業投資においては、「被投資国における農業の持続的可能性を確保」することが重要であることを認め、政府及び関係機関は、「本指針に基づいて海外農業投資の促進策を講ずるに当たり、以下の行動原則との整合性を確認する」ことを定めております。[3]
今回のニデラ社に関する報道はこの「指針」の③と④に抵触しているものと考えられます。
ニデラ社はこの報道について否定をしておりますが、アルゼンチン政府による摘発であり、十分な根拠があるものと当方では考えております。また企業活動を行っていく上で、法令遵守、人権の尊重は極めて重要な事柄であると考えております。
社会的な存在である企業として「企業の社会的責任」のあり方、また「グロ-バル・コンパクト」に対する取り組み姿勢にも強く関連するものであります。
つきましては豊田通商株式会社としての、これまでの現状の把握及び今後の対応についてお聞かせ頂きたくお願い申し上げます。
青西靖夫(開発と権利のための行動センター 代表)
大野和興(日刊ベリタ編集長)
近藤康男
松平尚也(アジア農民交流センター)
[1]「農地は誰のものか」ブログ記事より
http://landgrab-japan.blogspot.com/2011/02/blog-post_12.html
アルゼンチンでの農園労働者搾取と日本商社
日本の豊田通商と昨年11月に包括提携を結んだアルゼンチンの穀物商社ニデラの農場において、未成年、児童を含めた農村労働者を劣悪な条件で働かせていたとして、アルゼンチン当局が強制捜査を行い、労働者を解放、現在告発に向けて調査を続けている。
(以下別添)
[2] 南米に強みを持つ穀物メジャーと包括提携を締結
~ 食料資源確保のため供給ソースの多角化へ ~
http://www.toyota-tsusho.com/press/2010/11/20101119-3580.html
[3] 食料安全保障のための海外投資促進に関する指針 より一部抜粋
http://www.mofa.go.jp/ICSFiles/afieldfile/2009/08/20/G0858_J.pdf
4 我が国の行動原則及びこれに関する国際的取組等
(1)行動原則
海外農業投資は、被投資国における農業の持続可能性を確保しつつ、投資側・被投資側の双方が裨益する形で実施することが重要である。この観点から、政府及び関係機関は、本指針に基づいて海外農業投資の促進策を講ずるに当たり、以下の行動原則との整合性を確認する。同時に、被投資国側にも投資環境の整備(収用の原則禁止や輸出規制の抑制等)や投資関連情報の提供などを求めていく。
① 被投資国の農業の持続可能性の確保
(例:投資側は、被投資国において、持続可能な農業生産を行う。)
② 透明性の確保
(例:投資側は、投資内容について、契約締結時等において、プレスリリース等により、開示する。)
③ 被投資国における法令の遵守
(例:投資側は、土地取引、契約等被投資国における投資活動において、被投資国の法令を遵守する。)
④ 被投資国の農業者や地域住民への適正な配慮
(例:(イ)投資側は、投資対象の農地の農民及び所有者に対し、その農地の取得及びリースに関し、適切な対価を提供する。(ロ)投資側は、現地における雇用について、適切な労働条件の下、農民等従業員の雇用を行う。)
⑤ 被投資国の環境への適切な配慮
(例:投資側は、投資に当たって、土壌荒廃、水源の枯渇等、被投資国の環境に著しい悪影響を与えてはならない。)
⑥ 被投資国における食料事情への配慮
(例:(イ)投資側は、被投資国における食料事情に悪影響を与えないように配慮する。(ロ)投資側は、被投資国の主食作物を栽培している農地を他の作物に転換することにより主食作物の生産量を著しく減少させるような投資は行ってはならない。)
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