報告書自体は2008年のものですが、この報告書の内容はたびたび引用されています。
この記事は2008年5月に「オ-ガニック・スタンダ-ド」に掲載された報告書の紹介記事からの抄訳です。
Unequivocal support for organic agriculture
有機農業に対する明確な支持
国際的に重要な科学的な研究が、有機農業は、社会的、経済的、そして環境における持続性を含め、21世紀における確かな持続的生産方法である、と明確な支持を表明。
国際的に有力な活動であるInternational Assessment of Agricultural Science and Technology for Development(IAASTD開発のための国際農業技術評価)が、110の国からの900人の参加者により諮問を策定した。IAASTDは各国政府機関による4月7~12日のヨハネスブルグにおける全体会合を持つと同時に、6年に及ぶ検討の結果として08年4月15日に最終報告をまとめた。
開発と持続性の目標
国連ミレニアム開発目標(UN Millennium Development Goals:MDGs)に則り、IAASTDは、農業知識・科学・技術(AKST)がどのように飢えと貧困を減らし、農村のくらしの改善と持続環境を保全し社会的経済的に持続的な公平な開発に寄与しうるか検討をしてきた。
その作業は、過去及び未来に渡りAKSTが飢え、貧困、栄養状態、健康、そして環境と社会的持続性に与える影響など類似した共通の枠組みに基づくグロ-バルな評価と5つのサブグロ-バルな評価を含むものであった。5つのサブグロ-バルな評価は国・地域・ロ-カルなレベルで実施され、具体的な要素を分析することによりグロ-バルな評価を補完するものとされた。総合的な報告書は8つの事項に焦点を当てている。バイオエネルギ-、バイオテクノロジ-、気候変動、人の健康、天然資源管理、伝統的な知恵、貿易と市場、そして農業における女性、である。
IAASTDの報告書はヨハネスブルグの全体会合において60ヶ国の政府、科学者、私企業、社会啓発活動に取り組む団体により慎重に審議された。そして多くの国々で不安を呼び起こしている食料不足や食料価格の高騰を解決するために世界の農業を根本的に変革することを求めている。
重要な発見と結論
その評価は工業的農業の失敗に関する誇張のない説明となっている。過去のグリ-ンレボリューションは、結局破壊の痕跡を残したものであるとされている。土壌の肥沃度の喪失、土壌流出、農業の生態系における機能の破壊などの結果、単収の落ち込み、耕作放棄、森林破壊、農業の限界地の増大が起きている。土壌に含まれる重要なミネラルを食いつぶす工業的な農法により農作物の栄養価は60年前に比べ非常に低下してしまっている。報告書は、近代農業は土地・水資源を枯渇させ、生物多様性を低下させ、そして貧しい人々を食料価格の高騰の下でなすすべも無い状況に放置してしまったと指摘している。既にある多面的機能を持つ仕組みの研究開発は充分に優先されない状況にある。環境への影響を緩和する生態的な機能は少ししか認識されていない。
IAASTDは、生産力と単収を重要視したことは一定の有益性をもたらしたが、環境と社会的公正の犠牲によるものであったと結論付けている。
報告書はまた、小規模農家と環境は貿易自由化により犠牲となったことも示している。行き過ぎた貿易自由化は食料の安全保障と貧困の軽減に対しては負の影響をもたらし得ると認めている。そして不公正な農産物貿易システムは改められるべきであり、発展途上国は正当な権利として所謂北側からの補助金付きの安価な農産物の流入を阻止すべきである、と結論付けている。
要するに、この星の食料システムが生き延びるためには、小規模農業を支援し、生態系にやさしい農業を支援し、公正で公平な貿易を支援しなければならない、ということである。
IAASTDは、石油化学燃料と農薬に依存した農業は、農業生態学に依拠し伝統的な地域社会の知恵による、柔軟性のある持続可能な農業に置き換えられるべきであることを呼びかけている。最も先進的な農業のあり方は、生物多様性を保持し労働集約的な、自然に逆らわない、自然と共にある農業である。
報告書の特筆すべき点は、遺伝子組み換え作物に対する懐疑である。喧伝されている有益性に関する主張にはあまり触れることなく、懐疑と懸念に焦点が当てられている。人の健康と環境への影響に関しての疑問が提示されている。その報告書では、開発に対して技術評価が伴っていないこと、情報が逸話的で矛盾を含んでいること、有益性と被害双方共不確実性を孕んでいること、が述べられている。Robert Watson理事は、更に、組み換え作物が世界の食を賄えるかどうかは端的に言って、否である、我々はコストと利益双方を充分理解しなければならない、と述べている。英国食料農業省(DEFRA)所属の高名な気候変動専門家であり科学者グル-プの長である氏は、有機農業の有益性を示唆した。
報告書はまた、食料生産からバイオ燃料への農地転用の急速な進行を批判し、それは食料品の価格高騰を招き、飢餓を軽減する力を削ぐであろうと述べている。
IAASTDは地域において管理され、生物学的根拠を持つ農法の強化がこれからの路であるとの証拠を示している。それは、21世紀の食料危機を回避する確かな方策として有機農業に対する明確な支持を表明している。報告書は、農学は、天然資源の保全にもっと注意を払うべきであると促し、また有機農業・小規模農業を後押ししている。天然の肥料や伝統的種子の活用や生産者から消費者までの距離の短縮などのエコロジカルな農業の実践を促している。
報告書は、科学者の間で現在コンセンサスとなっていることを反映しており、全ての政府、市民社会や国際機関が、報告書にある知見を支持し、その進歩的結論を実行に移し、そして真のグリ-ンレボリュ-ションに向けて跳躍することを呼びかけている。真のグリ-ンレボリュ-ションは、より公正で持続的な食料と生態的農業を将来獲得する上で緊急に必要とされている。
この報告書が幅広く支持されたことは、参加各国政府の大多数による承認に表れている。しかし、カナダ・オ-ストラリア・アメリカはサインを拒否した。いくつかの点を曖昧な表現に修正した上でもアメリカは報告書の評価は公平さを欠いていると主張した。このアメリカの立場は基本的には貿易の問題に関連したものである。アメリカの代表団はまた、報告書は新たなバイオテクノロジ-や遺伝子操作に関して充分肯定的でないとも受け止めている。IAASTDはSyngenta社ほかの農業化学や生物工学企業から手厳しく攻撃を受けた。モンサントとスィンジェンタ社は、彼等の声が無視されその製品が不当に評価されていると苦情を述べ、抗議の表れとして会合から退席をした。
報告書における評価は、実験を踏まえた証拠に対する、何百人もの科学者や専門の研究者による厳密で公平な分析に基づいたものである。専門家たちは、今になってバランスを欠いていると主張している政府や私企業を含む多くの利害関係者によって選ばれた人達なのである。
行動に向けた声
IAASTDは、政策立案に関連を持っているものの、指令を与えるものではない。具体的な政策や政策遂行を提言するものでもない。ただ、直面する農業知識・科学・技術(AKST)に関する主要課題を評価し、開発と持続性の目標に合致する選択肢を提示しているのである。
それは、農民をエコシステムの生産者であり管理者として認識するよう主張している。往々にして貧しい人達によって生産・消費されている主要な生存のための食料の持続的生産性を向上させるために、農業知識・科学・技術(AKST)への公的・私的な更なる投資が必要とされている。農民の経験と外部の知識とを結びつけるために、農民、科学者、その他の人々の新たなパ-トナ-シップが必要とされている。
IAASTD:02年8月にヨハネスブルグにおけるWorld Summit on Sustainable Development の場で世銀とFAOの提案で設置され、同年11月アイルランドのダブリンで第一回会合が開催された。
30カ国の政府代表、30のNGO・消費者団体・企業代表からなるBureauがあり、実務を仕切るSecretariats。FAO, UNDP, WHO, UNESCO, World Bank, GEF, UNEPがバックアップ。
(翻訳:近藤康男)
報告書原文はこちら
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