この回答に関し、開発と権利のための行動センターの青西から、土地問題だけに関してのコメントを記載します。
質問1)サトウキビ栽培地の確保をめぐる問題について
(1) 当該農地の実際の耕作者の合意を得ぬまま、第三者が土地所有権の不当な取得・主張4を基に、ECOFUEL 社とサトウキビ栽培を目的とした契約を締結し、耕作者が同地での生計手段を喪失した/脅かされたケース5に関する事実確認の結果、および、その結果に基づく対応。(他続く)
この質問に関して伊藤忠商事では、契約当事者であるECOFUEL社を介さずに第三者弁護士を通じて状況の確認を行ったとのことである。
ここで4つのケースの確認作業が行われているが、うち3件で土地に関する係争が確認されている。2件において「法的所有者」がECOFUEL社と契約を行ったものの、耕作者は異なっており、もう一件では法的所有権者が確定できずにいる。
確認すべきこととして次の3点があげられる
1) 「法的所有権者」と耕作者が異なるケースが明らかに存在しており、こうしたケースが多々ある可能性が高いということ。この場合に一概に「法的所有権者」が正当な所有権を有するとは言えず、「法的所有権者」の土地証書が偽造されているケースあるいはその他の理由で正当性を有さないース、農地改革プロセスでの手続き中のケース、耕作者がその土地の占有権を有するものの法的手続きを行っていないケ-ス、あるいは耕作者の有する慣習法的な占有権が法的には認められていないケースなどが想定されうること。
2) 耕作者の権利は、その生存権の保証、伝統的生業形態を継続する権利という観点からも積極的に保証されるべきこと。
3) 今回の確認作業は弁護士に依頼しているが、高額な経費発生の可能性あり、耕作権が脅かされている小農民には現実的にはアクセスできないシステムであること。こうした問題に対して誰が経費を負担すべきなのかが明確となっていない。
以上の点を確認した上で、土地所有権に係わる書類等を有するものとの契約作業自体が、地域内の社会的紛争を引き起こすこととなることを改めて訴えたい。慣習的な土地利用が行われてきたところで、適切な仲介・紛争処理制度抜きに、近代法的な土地取引が進められると、それは土地紛争に直結する危険性が高いのである。
これに関連する質問4の(1)「 地域社会の農民・先住民族・労働者の苦情を適切に受け付けることができ、迅速に解決を図るための対応(苦情処理メカニズムの確立等の対応の検討・実施状況)」には明確な回答を頂いていない。
「種々の苦情に対しましては、その都度誠心誠意説明をさせて頂き、お陰様で地元の皆様にはご理解を頂き、本事業推進にご支援を得つつあると確信しております。」という回答であり、これではいつまでたっても現地の支援団体、日本のNGOなどが苦情を拾い上げ、圧力をかけることが必要となってしまう。
ここであらためて日本政府が推進する「責任ある農業投資原則」を振り返ってみたい。
この原則では土地について次のように定めている。
① 土地及び資源に関する権利: 既存の土地及び天然資源に関する権利は認識・尊重されるべき。
問題となるのはやはりこの「既存の」の定義であろう。フィリピンの事例で見るように「法的所有権者」と耕作者が異なり、「法的所有権者」が土地所有証書などを偽造しているケースも存在する。「法的所有権者」を守ることが「土地及び資源に関する権利」を守ることになるとは言えないのである。
土地に生計を依拠する耕作者の権利が優先的に尊重されるべきことが明記される必要がある。
そして、「正当な土地及び天然資源に関する権利を認識・尊重」するためには、精緻な調査とそれに基づいて計画され、誠実に運営される仕組み・制度が必要とされる。これは土地を求めて「ラッシュ」しているような企業には絶対にできない作業である。イサベラ州のプロジェクトを見ても、土地に関する権利を認識・尊重するという作業がいかに複雑なものかわかるであろう。
開発と権利のための行動センター
青西靖夫